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フーゾクの日本史  岩永文夫著 講談社α新書 [風俗]

 「フーゾク」という用語の意味合いは、読者の察する通り、広辞苑にある1番目の解釈ではなく、広辞苑から離れた隠語的意味合いの、性的な習慣や嗜好を指して「性風俗」と呼ぶ場合の「風俗」がこの本の中の「フーゾク」の意味・定義である。尚、性的サービスを提供する業種の動向を指して「性風俗」、またその産業(風俗店)そのものを指して「性風俗」や「風俗」と称する事があり、古代より営まれてきたこのサービス産業について、書物のなかの表現からの「フーゾク」を古代より解き明かした本である。

 そしてこの本ではもっと具体的に、
〝玄人と呼ばれる女性たちの仕事を筆者は現代の有り様をもあわせてフーゾクと呼んでいる。それは遊女のいた遊郭から私娼のいた岡場所、いや江戸時代だけでなく、それ以前の遊行女婦(ゆうこうじょふ)やあそび女(め)、白拍子(しらびょうし)、江戸以降の矢場女(やばおんな)や銘酒屋の酌婦、赤線の女にソープ嬢。さらに実際にはセックスをやらないで、射精だけをうながす現代のヘルス嬢などのニューフーゾクの女性たちすべてをもって。
 
 そして彼女たちと同じ時代を生きた人たち、中でもその代表としての文学者たちが自らのフーゾクとのかかわりをどのように伝え残してくれているのか。それを万葉の昔から現代までのさまざまな時代の文学作品を通して、その中に描かれているフーゾクのいろいろを眺めてみると・・・・・、そこにもう一つの日本史が立ち現れ来るのだ。これが実に面白い!
 〝女なくして夜も明けぬ国ニッポン〟の面目躍如たるスケベぶり、好色ぶりが横溢する世界が顔を出す。〟とある。

 簡単に言えば、古代からの書物、文学作品の中に記述された「フーゾク」描写を解説したものである。

 特に注目は、第1章の上代~中世 遊行女婦から白拍子の時代だろう。もっとわかりやすく言いなおせば、江戸時代以前の時代の「フーゾク」である。江戸時代以降は、よく知られているというより、書物や、浮世絵などを後世に大量に残しているので、ほぼ把握されていると考えられる。

 「万葉集」、「大鏡」、「大和物語」、「古今和歌集」などに、普通に男女の営みの描写があり、遊女は文化であるとまで分析している。やっていることは、現代も同じで、違いは世の中の寛容さ、おおらかさがあったことらしい。

〝そして室町時代に起きた「フーゾク」業界の大事件は、時の足利幕府が、疲弊した財政の再建策として手あたり次第に税をかけた。
 その挙句が傾成局(けいせいきょく)の新設である。遊女稼ぎは官の免許を受けることとした。その結果が本邦発の売春の公認だ。そして娼婦からは一人十五文の年税を、娼家からは段銭(たんせん)や棟別銭(むねべつせん)を徴収することにした。すなわち公娼制度の始まりである。〟

 この制度は、江戸、明治、大正と受け継がれ、戦後になって公娼制度が廃止され、各地に赤線が出現し、さらにそれも売防法の制定によって姿を消してしまう。

 ちなみに残りの章だては、

 第2章 近世 花魁と飯盛女の時代
 第3章 明治~昭和初期 銘酒屋の時代
 第4章 終戦~昭和30年代 赤線とトルコ風呂の時代
 第5章 昭和40年代~現代 地方のフーゾクとニューフーゾクの時代

 現代は、上代から古代と同様に、公娼制度はなくなったが、この「フーゾク」産業はなくなったわけではなく、形をかへ、仕組みを変えて、存在している。

 江戸時代以降の具体的な話は、本書に譲るとして、印象的な話は、古代~中世は性病がなかったことが、おおらかさに繋がっていたという記述と湯女の由来であった。

 現在は、江戸時代の風俗画の一種である浮世絵のの男女の営みの画が見直されている。西洋に春画として大量に流出したが、江戸時代の独自の風俗様式として見直されているのである。

 この本は、教科書には決して取り上げられないが、間違いなく日本史の一つの面を占める重要な風俗様式であり、別に隠す必要もなく羞恥心をあおるものでもない、ことがわかる。警視庁が、見えた見えない、「わいせつ」だ、などという言葉がいかに低次元のものであることがわかる。もしかして、現代の日本人の性意識を踏まえた文化意識レベルは、古代、江戸時代より低下しているのかもしれない。


フーゾクの日本史 (講談社プラスアルファ新書)

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  • 出版社/メーカー: 講談社
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